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『ONCE ダブリンの街角で』 [ぼくのシネマノート]

なんてたってダブリンである。
アイルランドである。
しかもタイトルが「ONCE」だ。
それだけでなんかもう「切なそうな映画だな…」って思ってしまう(笑。
イングランドやスコットランドよりさらに寒々しくどんよりと暗鬱な空。
大英帝国の支配から独立してそこで暮らす誇り高き人々…。
勝手なイメージだけど、アラン・パーカー監督の『ザ・コミットメンツ』とかU2の『魂の叫び』とか、アイルランドの音楽映画に惹かれるものがある。
この映画は2007年度のアカデミー賞歌曲賞を受賞していて前から見てみたいと思っていた。

  once.jpg


映画は街角で男が歌っているシーンで始まる。
男が抱えているのは長い間カッティングを続けたせいでサウンド・ホールの下の表面板に穴が開いてしまったタカミネのギターである。
男の背後からひょろひょろと少年が出てくる。

02.jpg

男の前にあるギター・ケースの近くでしゃがもうとする。
歌いながら男は話しかける。
「変な真似するんじゃないぞ」
「靴ヒモを直すだけだよ」
そういってしばらく微妙な動きを見せていた少年は、いきなり小銭の入ったギター・ケースを掴んで走り出す。
「これ持ってて」
男はギターを通りすがりの人に預けて少年を追いかける。
近くの公園で少年はついに力尽きて男に捕まる。
「ビョーキで薬代が要るんだ」
「いいか、歌って金もらってるオレから金を取るな」
「同じ苦労人だけどあんたはスゲエよ」
「金が欲しけりゃ言え。走るのはゴメンだ」
「じゃあ5ユーロくれる?」
けっきょく男は少年に5ユーロくれてやる。
誇り高くて優しい男なのだ。
そんな泣き笑いのようなエピソードからやがて男はピアノを弾く若い女と顔見知りになる。
女がいつもピアノを弾かせてもらっている楽器店で、男がギターと女のピアノに合わせて自作の曲を歌うところが最初のクライマックスだろうか。

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エンド・クレジットを見てびっくりしたのだが、これがほんとうに自作自演の歌なのだ。

話は飛ぶけれど、今シーズンの『アメリカン・アイドル』で優勝したクリスが、「映画のなかの歌」という課題のときこの曲を歌った。
ぼくのなかではどうみても4番手か5番手に過ぎなかったクリスを注目するようになったのは、この歌がきっかけだった。
審査員もカーラだったかポーラだったか忘れたけれど、「みんなが知らない歌を歌うのは勇気の要ることだわ」と褒めていた。

そのあと男は音楽をやるためにロンドンに出る決意をし、デモ・テープを作ることになる。
そのときの歌がまたいいのだ。
声質はちょっとブルース・スプリングスティーンに似ているだろうか。
あそこまでハスキーではないが、渋くていい声だ。

04.jpg

女の弾くピアノも、ちょっと聞かせる歌も、饒舌ではないところがいい。
これも彼女自身が自作の歌を歌って弾いている。

ダブリンの街角とそこで暮らす名もない若い男女の静かな出会いと交流が音楽とともに描かれる。

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ネットでは「長い長いPVを見せられているようで退屈だった」という評もあるようだが、ハリウッド映画のような派手なアクション・シーンもないし人気のあるスターが出ているわけでもない。
何気ない人生の1コマをそっと切り取ったような静かで美しいドラマ。

Wikiによるとアメリカではたった2館の上映から始まって最後には全米140館で上映されたそうだから、静かな評判が水の波紋のように広がっていったのだろう。
そんなところもこの映画にふさわしいような気がする。
興味のある方はぜひ一度どうぞ。

2007年 アイルランド
86分 ヴィスタ・サイズ
BS  画質 ☆☆☆☆
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コメント 6

MASA

これは私も気になっていながら観てない映画です。
WOWOWでやった時にも見逃しちゃったし^^;
そっか、クリスはこの映画の曲を歌ったんですかー。
どんな歌かもはや憶えてませんが(笑)シブい選曲ですね。

最近ケーブルTVで観て感動したのはマリアンヌ・フェイスフルが主演している「やわらかい手」という映画です。
2、3年前の映画ですが、ちょっと変わった映画で、最後はホロリと泣けました。


by MASA (2009-08-21 01:02) 

parlophone

MASAさん、こんばんはー。
ほんとに静かな映画ですけど、歌もいいしオススメです。

>そっか、クリスはこの映画の曲を歌ったんですかー

すみません。
ぼくがMASAさんのブログに「今度クリスのことを書きます」とコメントしたのは、アメアイの記事ではなくて、この映画のことだったんですよ。

>マリアンヌ・フェイスフルが主演している「やわらかい手」という映画

おお、これ見てないですね。
ぜひ今度ブログで紹介してください♪
by parlophone (2009-08-21 01:34) 

ぷーちゃん

こういった映画が静かに評判を呼んで行く。
このあたりから良い内容が伝わりますね。
お金をかけるだけでは無いってことですね。

そうそう、ダブリンは、ほんと安全な
良い街です。ギネスで乾杯!
by ぷーちゃん (2009-08-21 08:46) 

parlophone

ぷーちゃんさん、nice!&commentありがとうございます。

>こういった映画が静かに評判を呼んで行く
>このあたりから良い内容が伝わりますね

ほんとですね。
たまにはこういう映画を見て音楽の喜びをあらためて感じたり、ジーンとするのもいいなあと思います。

>そうそう、ダブリンは、ほんと安全な良い街です

おお!ぷーちゃんさんはダブリンにいらしたことがあるんですか!
うらやましいなあ。
IRAなんかが破壊活動をしている危険な街だと思われてたら残念ですよね。
by parlophone (2009-08-22 00:00) 

walrus

この映画、劇場で観ました。歌が魅力的ですよね。
レコーディングのシーンで、あまりやる気のなかったエンジニアが、
曲を聴いてくうちに、おっ、こいつらやるじゃん、
みたいになっていくシーンが印象に残ってます。
by walrus (2009-08-23 01:13) 

parlophone

walrusさん、こちらにもnice!とcommentをいただきどうもありがとうございます。

>この映画、劇場で観ました

いや~、さすがですね。
ぼくなんかアカデミー賞取るまでまったく知りませんでした^^;

>あまりやる気のなかったエンジニアが、曲を聴いてくうちに、
>おっ、こいつらやるじゃん、みたいになっていくシーン

ぼくもあのシーン、大好きです。
「変なやつらのレコーディングにつき合わなくちゃいけないから今日はちょっとムリだ」なんて言ってたくせに、
とつぜん「!!」みたいな表情になって調整卓のツマミをいじったりして、すごくおもしろかったですよね^^
by parlophone (2009-08-23 20:11) 

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